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高松地方裁判所 昭和62年(ワ)357号 判決 1988年4月15日

主文

一  被告らは各自、原告森實に対し金一七八〇万〇九三三円及びこれに対する昭和六二年六月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告森惠美子に対し金一六八〇万〇九三三円及びこれに対する昭和六二年六月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その三を原告らの、その余を被告らの各負担とする。

四  この判決は第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当時者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告森實に対し金四一九三万六九六八円及びこれに対する昭和六二年六月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告森惠美子に対し金四〇八三万六九六八円及びこれに対する昭和六二年六月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生

次のとおりの交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 昭和六二年六月三日午前一一時三〇分ころ

(二) 場所 岡山県真庭郡勝山町神代九七の一先国道上

(三) 加害車 普通貨物自動車(岡一一あ四一三五)

運転手 被告奥山和也

(四) 被害者 訴外亡森俊博(以下「本件被害者」という。)

(五) 態様 被告奥山和也は加害車を運転し、前記国道を時速六五キロメートルで進行中、居眠り運転をしたため、反対車線にはみ出して進行した過失により、折から反対車線を進行してきた本件被害者の運転する普通貨物自動車に激突させた。

(六) 被害 本件被害者は脳挫傷等により即死した。

2  責任原因

(一) 被告奥山和也は、1の(五)記載の過失により本件事故を惹起したものであるから、民法七〇九条により、本件事故のために本件被害者及び原告らの被つた損害を賠償する責任がある。

(二) 被告岡山臨港倉庫運輸株式会社は、本件事故当時、前記加害車を保有し、自己のために運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法三条により、本件事故のために本件被害者及び原告らの被つた損害を賠償する責任がある。

3  相続

原告らは、本件被害者の両親であり、原告らの外に相続人はいない。

4  損害

(一) 本件被害者自身の損害

(1) 逸失利益 金七三二五万三九三七円

本件被害者は、本件事故当時、訴外株式会社瀬戸内海放送(以下「瀬戸内海放送」という。)に勤務していた昭和三五年二月二三日生の健康な青年であり、就労可能年齢六七歳までの逸失利益は、次のとおりである。

<1> 瀬戸内海放送在職中の分

ア 就労可能年数

瀬戸内海放送の定年は満五七歳であるから、就労可能年数は三〇年となる。

イ 収入金額

昭和六一年度(昭和六一年四月一日から昭和六二年三月三一日まで)の瀬戸内海放送の一般従業員の平均年収は、金五五七万一三七八円である。

ウ 生活費控除

本件被害者は、結婚を間近に控えた二七歳の青年であり、一家の支柱になることが確実視されていたものであるから、控除率は四〇パーセントとするのが相当である。

エ 中間利息控除

新ホフマン式計算法による。

オ 計算式

五五七万一三七八円×(一-〇・四)×一八・〇二九=六〇二六万七八二四円

<2> 定年退職後の分

ア 就労可能年数

満五七歳から満六七歳までの一〇年である。

イ 収入金額

昭和六〇年度賃金センサス第一巻第一表の産業計、企業規模計、男子労働者、旧大・新大卒の六〇歳から六四歳までの平均給与額は金五九八万八八〇〇円であり、本件被害者の五七歳から六七歳までの間の年間収入は、右金額に求めるのが公平妥当である。

ロ 生活費控除率

四〇パーセントが相当である。

ハ 中間利息控除

新ホフマン式計算法による。

ニ 計算式

五九八万八八〇〇円×(一-〇・四)×(二一・六四三-一八・〇二九)=一二九八万六一一三円

(2) 慰謝料 金二〇〇〇万円

本件被害者は、本件事故当時二七歳の青年であつて、その将来を嘱望されていたものであり、その途中に、被告奥山和也の無謀な運転行為により死亡するに至つたものであつて、被害者の無念さは筆舌に尽くし難い。

(二) 原告らの固有の損害

(1) 原告森實

<1> 葬儀費 金一〇〇万円

<2> 慰謝料 金三〇〇万円

原告らは、本件被害者を心から慈しみ育てたものであり、同人が最高学府を卒業し、一流企業に就職した際の喜びようは大変なものであつた。そして、原告らは、次に同人が結婚し幸福な家庭を築き、孫の顔を見ることを無上の楽しみにしていた。かかる原告らの夢は、本件事故により無残にも打ちくだかれたものであり、原告らの悔しさは言語に絶するものがある。

(2) 原告森惠美子

慰謝料 金三〇〇万円

(3) 原告らは、本件訴訟代理人に訴訟委任するに当たり、報酬として認容額の一割を支払うことを約した。

5  一部請求

原告らの損害のうちから、支払を受けることの確実な自動車損害賠償責任保険金二五〇〇万円相当額を控除した原告らの請求金額は、次のとおりである。

(一) 原告森實

(1) 相続分金四六六二万六九六八円、葬儀費金一〇〇万円及び慰謝料金三〇〇万円の合計額から、前記自動車損害賠償責任保険金二五〇〇万円の二分の一に相当する金一二五〇万円を控除した金額は、金三八一二万六九六八円となる。

(2) 弁護士費用は、金三八一万円となる。

(二) 原告森恵美子

(1) 相続分金四六六二万六九六八円及び慰謝料金三〇〇万円の合計額から、前記自動車損害賠償責任保険金二五〇〇万円の二分の一に相当する金一二五〇万円を控除した金額は、金三七一二万六九六八円となる。

(2) 弁護士費用は、金三七一万円となる。

6  よつて、原告森實は、被告らに対し各自金四一九三万六九六八円及びこれに対する本件事故の日である昭和六二年六月三日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、原告森恵美子は、被告らに対し各自金四〇八三万六九六八円及びこれに対する本件事故の日である昭和六二年六月三日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金を、それぞれ支払うよう求める。

二  請求の原因に対する答弁

1  請求の原因1ないし3の各事実はいずれも認める。

2  請求の原因4の事実のうち、本件被害者が昭和三五年二月二三日生で本件事故当時瀬戸内海放送に勤務していたことは認め、その余は争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求の原因1ないし3の各事実は当事者間に争いがない。

そこで、損害について判断を加える。

1  逸失利益 金三六六〇万一八六七円

原告らは、本件被害者の勤務先の平均給与を基礎として逸失利益を算出すべきであると主張する。

しかしながら、給与所得者の死亡による逸失利益は、原則として、事故前の実際の収入額から本人の一定割合の生活費を控除した額に就労可能年数に対応する新ホフマン式の係数又はライプニツツ式の係数を乗じて算定するのが相当である。もつとも、死亡当時安定した収入を得ていた被害者において、生存していたならば、将来昇給等による収入の増加を得ていたであろうことが、証拠に基づいて相当の確かさをもつて推定できる場合には、右昇給等の回数、金額等を予測し得る範囲で控え目に見積もつて、これを基礎として将来の得べかりし収入額を算出することも許されるものと解すべきである。

そこで、検討するに、本件被害者が昭和三五年二月二三日生(本件事故当時満二七歳)で本件事故当時瀬戸内海放送に勤務していたことは、当事者間に争いがなく、また、成立に争いのない甲第一号証、原本の存在成立ともに争いがない乙第一号証の一、二、証人多田羅重信の証言を総合すると、次の各事実を認めることができる。

(一)  本件被害者は、昭和五八年三月に明治大学を卒業して同年四月に瀬戸内海放送に就職し、営業部に勤務した後、昭和六二年三月からは、報道部の記者として活動していたが、勤務態度も真面目であり将来を嘱望されていたこと。

(二)  瀬戸内海放送は、日本民間放送連盟に所属する従業員八〇名余りの優良企業であり、給与水準も安定していること。

(三)  日本民間放送連盟は、これに加盟している各社に対し、適切な労務管理や賃金政策を指導するために、毎年右各社の従業員の賃金を調査してこれをまとめた労務資料(前掲甲第一号証)を発行しており、右各社は、同資料を参考にその年の賞与等を決定していること。

(四)  瀬戸内海放送は、毎年中四国労務会議において、日本民間放送連盟が労務対策会議によつて決定したガイドラインを基準にして、関係各社と意見を交換し、その結果を踏まえて、従業員の給与を決定しており、あらかじめ確立された給与規定等を有していないこと。

(五)  本件被害者の事故前の年収は金三三八万二三九一円であつたこと。

以上の事実が認められる。

右事実によると、本件被害者が勤務していた瀬戸内海放送は優良企業であり、本件被害者の勤務態度も良好であつたから、本件被害者が生存していたならば、将来昇給等による収入の増加を得ていたであろうという蓋然性は否定できないものの、瀬戸内海放送にはあらかじめ確立された給与規定等が存在しないため、将来の昇給等による収入の具体的金額を相当の確かさをもつて推定することができないといわざるを得ない。前掲労務資料(甲第一号証)は、昭和六一年度における日本民間放送連盟に属する各社(瀬戸内海放送を含む。)の従業員の平均賃金等を集計しているが、右資料から本件被害者の将来の昇給等による収入の増加を具体的に推定することは困難である。

したがつて、本件被害者の逸失利益を算定するにあたつては、事故前の年収額である金三三八万二三九一円を基礎とするほかはないというべきである。

次に、原告森恵美子本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、本件被害者は単身者であつたことが認められるところ、原告らは、本件被害者は結婚を間近に控えており、一家の支柱となることが確実視されていたものであるから、生活費の控除率は四〇パーセントが相当である旨主張する。

原告森恵美子本人は、本件事故後、岡山の女性が原告らの家を訪問し、本件被害者と結婚の約束をしていたことを原告らに打ち明けた旨供述するが、これだけでは本件被害者が右女性と結婚して将来一家の支柱となることが確実となつていたものと認めるには不十分であり、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

したがつて、本件被害者の生活費の控除率は五〇パーセントとするのが相当である。

以上によると、本件被害者の逸失利益は、事故前の年収金三三八万二三九一円から五〇パーセントの生活費を控除した額に就労可能年数(満二七歳から満六七歳までの四〇年)に対応する新ホフマン式の係数(二一・六四二六)を乗じて算定するのが相当であり、右算定方式によると、本件被害者の逸失利益は、金三六六〇万一八六七円となる。

2  本件被害者の慰謝料 金一五〇〇万円

本件事故の態様、本件被害者の年齢、社会的地位等一切の事情を斟酌すれば、本件被害者の慰謝料としては金一五〇〇万円が相当である。

3  原告らの固有の慰謝料 各金二〇〇万円

原告森恵美子本人尋問の結果によれば、原告らが本件被害者の死亡により、多大の精神的苦痛を受けたことが認められるところ、本件事故の態様その他諸般の事情を考慮すると、原告らの精神的苦痛に対する慰謝料額は各金二〇〇万円と認めるのが相当である。

4  葬儀費用 金一〇〇万円

弁論の全趣旨によれば、原告森實は、本件被害者の葬儀費用として少なくとも金一〇〇万円の出損をしたことを認めることができるところ、本件被害者の年齢、社会的地位等を考慮すると、葬儀費用としては金一〇〇万円を認めるのが相当である。

5  弁護士費用 各自金一五〇万円

原告らが、本件の提起、追行を弁護士に委任していることは当裁判所に顕著であるところ、本件事案の性質、訴訟の経過等諸般の事情を考慮すると、弁護士費用は、各自金一五〇万円の限度で本件事故と相当因果関係にある損害と認めるべきである。

6  まとめ

原告らが本件被害者の両親であり、原告らの外に相続人がいないことは当事者間に争いがないので、原告らは、前記の本件被害者の逸失利益(金三六六〇万一九六七円)及び慰謝料(一五〇〇万円)の合計額の二分の一(二五八〇万〇九三三円)ずつを相続したことが認められる。

また、原告らは、原告らの請求できる損害賠償額から、支払を受けることの確実な自動車損害賠償保険金二五〇〇万円を控除した一部請求をしているので、右賠償額から各自金二五〇〇万円の二分の一に相当する金一二五〇万円を控除すべきである。

以上によると、認容すべき額は、次のとおりとなる。

(一)  原告森實 金一七八〇万〇九三三円

二五八〇万〇九三三円+二〇〇万円+一〇〇万円+一五〇万円-一二五〇万=一七八〇万〇九三三円

(二)  原告森恵美子 金一六八〇万〇九三三円

二五八〇万〇九三三円+二〇〇万円+一五〇万円-一二五〇万円=一六八〇万〇九三三円

二  よつて、原告らの本訴請求は、被告らに対し、原告森實については金一七八〇万〇九三三円及びこれに対する本件事故の日である昭和六二年六月三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、原告森惠美子については金一六八〇万〇九三三円及びこれに対する本件事故の日である昭和六二年六月三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 井上哲男)

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